第11話「探検×スポ根×密航者」
※注意点
このシリーズはハンターハンターのアニメを深読みして、自分なりの感想をまとめたものになります。
そのため、主観的な意見が多く、証拠や根拠はあまりありません。
私が見て感じたことや気づいたこと、大切だと思ったことなどを正直に書いているだけのものですので、
十分理解した上で読まれることをおすすめします。
こういった感情や見方で見る人もいるのだと思っていただけたらば幸いです。
Aパート
・夜の飛行船、密航者らしき人物が船の中へ。
空を斬る強い風にも負けず、俊敏な身のこなしは、さすが二次試験まで残っただけのことはあると言える。
不敵に笑みを浮かべるアップのカットに印象的に光るピアス。興味をそそるワンシーンといえよう。
・飛行船が到着するまでは自由だと聞くゴンとキルア。
「自由だって」
「ああ。ゴン、飛行船の中、探検しようぜ」
2人ともおよそ人間離れしているからか、このようないかにも子供らしい好奇心旺盛な部分を見ることができ、どことなくホッとする。
一方でクラピカは背を壁に預け、ため息をつく。相当疲れている様子。
ゴンはそんなクラピカも探検に誘うが、断るクラピカ。レオリオもまた同様。クラピカやレオリオも誘おう、一緒に行こう、と考えるゴンが彼らしく、そして子どもらしくまた微笑ましい。
レオリオの「2人で行ってきな」と見送る彼に対し、元気に「うん!行ってくるよ」ときちんと答えるゴンは、何ともないシーンのようでいて、まるで家族のような、親子のような雰囲気さえ感じられ、ますます微笑ましい。
一方、レオリオもクラピカも完全な無防備状態。
トンパの怪しい忠告も「また何か言っているな」という表情で聞いていて、完全に気にしていないことがわかる。
・探検を始めたゴンとキルアは早速コックピットへ向かう。それを物陰から見る少女の姿が。
さすがキルアといったところか、瞬時にその気配に気づく。おそらく、この時点ではそこまで脅威に感じていない。怪しい影、としかまだ捉えられていないからか、ゴンに話すこともない。放っておいても返り討ちにできるだろうと考えたか、すぐに振り切りゴンを追いかける。
・コックピットに忍び込むゴンとキルア。
「立ち入り禁止」に入ることを気にするゴンに対し、「だから探検なんだろ」とキルアは平気な様子。
ゴンはミトから約束を守ることのほか、人間関係に対しての常識等も教わっており、入ってはいけない場所に入るのは教えに反することで、気が引けるのだろう。一方のキルアは真逆で、おそらく禁止された場所にこそ踏み込まざるを得ないことも多々あったと思われる。ゴンとキルアの対照的な反応が面白いシーンと共に、2人の育ってきた環境が違うこともわかるシーンだ。
・当然というべきか、コックピットから追い出される2人。
「怒られちった」と凹むゴン。人に怒られることはやはり嫌なのであろう。基本的に良い子に育てられているゴンであるから、叱られたら良い思いはしないということか。
そんなゴンを「次行こう、次」と引っ張っていくキルアも、少し申し訳がなさそうである。小さな優しさが垣間見える部分だ。
・一方、試験官たちは集まってテーブルを囲む。
「今年はルーキーが良い」と話し合う面々。メンチはハンゾーが気になるという。一度至近距離で話しているし、ハンゾーの実力もハンターの勘のようなもので察したのかもしれない。
サトツはキルアが気になるようである。やはり、キルアから発せられるただならぬ気配や気質を見抜いているようだ。「素質がある」と言っていることから、キルアは意識していなくとも、(またサトツも意識して見たわけではないにしろ)オーラを感知されたのかもしれない。
・話はヒソカに対するものに変わる。
サトツのいう「掛け試し」とはまさにヒソカに適した言葉だろう。
また、「躊躇いなくアクセルを踏める」という表現に積み上げたトランプを崩す演出を被せるのはさすがであろう。(原作にもある)
普通は崩すのが勿体無いものを、あえて壊す。
この表現が異端児であるヒソカをより強烈な印象に残してくれ、トランプタワーがヒソカの象徴であることが明確となる。
・夜景を見るゴンとキルア。
夜景の話からキルアの家の話へと自然に流れる会話。キルアの両親の話まで違和感なく進んでくれる。
それのおかげで、ゴンが両親の話を切り出すのがとても普通に違和感なく見ることができ、構成がとても上手いと感じるシーンだ。
キルアの両親が殺人を生業としていると聞いても、ゴンは何も動揺しない。「本当なんでしょ?」と聞く始末だ。
「どうしてわかる?」キルアも質問で返す。ここの場面だが、このセリフを喋る画は、窓に映ったキルア、というのが印象深い。少し警戒をしているのか、ゴンの腹の中を探ろうとしているのか、若干不審を表しているとも取れる。真意を確かめたい、という裏の顔のキルアを窓に映るキルアに喋らすことで、二面性を表しているとも言える。
それに対し、ゴンは「何となく、かな」と答える。ここのゴンはキルアを見ていない。自分の姿を映す窓の方を見ている。(正しくは夜景なのだろうが、あえてここでは自分を見ていると表現する)きちんとした確証はないが、自分の心に嘘はついておらず、裏もない。鏡に映る自分にも嘘をつくような子ではないゴンであろうから、ゴンは本当に心の底からそう思っただけだと読み取れる。
キルアはゴンから目線を外し、独白をする。ゴンは今度はキルアをしっかり見ている。この姿勢から、キルアの話を聞いて、キルアをもっと知ろう、と言うゴンの心のうちが垣間見える。自分とは違う世界のキルアを分かろうとしているのだ。さすがに母親に「人殺しの才能」を力説されたことに対しては、ゴンも若干困惑気味だが。
ただ、キルアの話を聞いて出てきたゴンの言葉は、「キルアってすごいね」だった。続けて「父さんを超えたいなんて思ったことないもの」と続ける。キルアの話の中には父親のことは出てこなかったが、おそらく、敷かれたレールとは父親に決められた将来であり、それを歩きたくない=父親と同じ道を歩かない、父親を超える、と思考がつながったと思われる。
(次の話の描写でキルアが「捕まえたいのは親父の背中だ」と言うシーンがあるが、キルアには心のどこかに父親は追いかけるものではなく、捕まえて追い越すものだと言う想いがあるのかもしれない)
キルアはゴンの言葉を聞いて「親父捕まえるってそう言うことだよな」と静かに言う。そばにいない、会ったこともないのだから、当然超える存在というよりも、「追いかける存在」ということになる。そばに親がいない、というゴンの気持ちを案じてか、キルアの口調も優しげなのが印象的なセリフだ。
・キルアの父親のことは「何となくわかる」というゴン。
このゴンの「何となく」がこの話のキーワード。ここで何度も使うことで(キルアも「また何となくかよ」と呆れるほど)、これが良い伏線になっている。
・こちらを伺う気配を察し、すぐにその気配の元へ走るキルア。
人の気配に敏感な部分を描くことで、ますますキルアの実力が実戦ではない形で表現され、視聴者もキルアの正体を知った今、キルアなら人の気配くらい感知可能だろうなと疑うこともない。
そして、キルアはゴンには何も言わない。しかし、ゴンも察しがいい方だ。すぐにキルアの様子のおかしさに気がつく。
・カフェでお茶を飲む2人。
会話が急に素っ気ないものになり、ゴンは思わず「ひょっとして、怒ってる?」と心配そうにだが、単刀直入に言う。ここで気分を害したり、我慢をしたりなど一切せず、すぐに相手に聞けるところがゴンのいいところだ。もしかしたら、自分のせいなのかもと思ったのもあるだろう。聞きたい、気になる、と思えばすぐに行動に移せるゴンは自分の心を隠さない子だとよくわかる。
「お前のせいじゃないよ」とキルアはそれでも目を逸らしながら言う。ゴンがまっすぐ見てくるのに対して目を逸らす、これはゴンの上記にあるような純粋さに対して、恨みを買われるような自分が直視していい存在ではないと感じたのかもしれない。実際、このシーン以降ゴンの顔を見るの場面は、2人きりになるシーンまで無い。
Bパート
・アニタが現れる。
ゴンはアニタと仲良くしようとするも、目を合わすどころか背を向けるキルアを見て、ふとため息をつくゴン。キルアの心配をしつつも、この空気をどうしようかと気を使っている様子が窺える。
アニタの話の中で「スパイス鉱山」の単語に反応するキルア。聞いたことがある様子のキルアを見ながら「仇を取りたい」と言うアニタ。アニタの仇がキルアだと言うことがよくわかる。
アニタから父親殺害に「暗殺一家」が関与しているのだと聞いてゴンは「まさか」と言う反応を示す。
キルアがようやくアニタを見るのだが、ここのシーンはとても見事だ。
口元の危ない笑みを浮かべるカットが0.5秒あるかないかの一瞬挿入されてから、ゆっくりと不敵にアニタを見るキルアは、先ほどまでゴンと無邪気に笑い合っていた彼の面影は全くない。急に大人っぽくなったかのような印象さえある。「暗殺者の顔」に変化するこのシーンは、表現がとても上手くかなり色濃く印象に残る。
・レオリオとクラピカが登場する。
アニタに同情を示す2人を、キルアは止める。アニタの口から「ゾルディック家」と出て、クラピカがキルアがそうだったのかと驚く。しかし、キルアに対しての恐れのような感情は浮かんではいない。急な事実についていけなかったこともあるかもしれないが、人にはそれぞれ事情があることは、クラピカが一番よくわかっているはずだ。故に、冷静でいられたのかもしれない。
・短剣を抜こうとするも、睨みをきかすキルア。
ここもまた0.5秒あるかないかのカットだが、キルアの無機質で人殺しの目が印象的な、かなり強烈な画で素晴らしいカットになっている。旧はこのような一瞬のカットを大事にしているシーンが多く、そこも好感が持てる理由の一つかもしれない。
キルアの言葉にテーブルをひっくり返し、キルアを襲うアニタだが、ネテロが割って入って止める。
アニタの動きを完璧に読み、刃だけを確実につまみ、動きを止められるネテロはまさに超人と言えるだろう。
・連れて行かれるアニタを見送る4人。
クラピカはその背中を見て「私も試験に落ちていたら、同じことをしたかもしれない」と述べる。これは、試験に受かりたいからと言うことではなく、受験者に仇がいたら密航してでも追いかけただろうという意味だろう。「理屈じゃないんだ。こればかりは」と続けるクラピカ。仇を殺せるチャンス。それを逃したくはない、という想いはそう簡単に止められるものではない、ということだろう。
名前を呼ぶゴンを放って、キルアは3人を置いて1人で立ち去る。
・飛行船の窓辺でピアスを見つめ、苦々しい顔をするキルア。
先ほどの不敵さはもうない。ここではすでに「暗殺者」という自分の肩書きに嫌気がさしてきていることが少しだがわかる。
近寄るゴンが窓に映って気がつくも、振り返らず顔も背けるキルア。
「わかったろ? オレは人に恨みを買うやつなんだ」
「でも、キルアが殺したわけじゃないよね」
「何でそう思う?」
「何となく。ミトさん言ってた。その人を知りたければ、その人が何に対して怒りを感じるかを知れって。オレ、キルアのことをもっと知りたい」
ここでゴンは、キルアが何か怒りの類の感情を持っていると感じ取り、苦しんでいることを見破っている。直前のシーンのことを考えると、ここでのキルアの抱える怒りとは、おそらく自分に対してのものだろう。ゴンたちと触れ合うことで、より「暗殺者」という裏の自分が嫌になりつつあるのかもしれない。
「オレに構うな」
「でも」
「1人にしといてくれ」「あっちいけよ!」
「キルア」
「あっちへ行けって言ってんだ!」
まっすぐな瞳のゴンに驚くキルア。
「勝手にしろ!」
「うん!」
キルアの1人にしてくれというのは、本心であると同時に、ゴンにこれ以上こんな自分を見せたくない、合わせる顔がない、と思ったのかもしれない。
しかし、テコでも動かないゴンに苛立ち、つい手をあげかける。振り向いて見て驚いたのは、そんなことをされても、こちらを身じろぎもせずに、真っ直ぐに見つめてくるゴンにびっくりしたからだろう。
そして、ゴンはこうなればここを離れることは決してないだろうと悟ったキルアは勝手にしろと告げる。内心、少し嬉しかったのかもしれない。暗殺者という正体を知られつつ、手も上げ、怒声まで浴びせたというのに、こちらを見てくれるゴンに。
・ネテロが2人の前に現れる。
アニタが、もう試験を受けられないかもしれないと聞き、心底残念がり止められないのかと必死そうなゴンを、キルアは驚いた表情で見つめる。アニタは自分で忍び込みいざこざを起こした。つまり、自業自得とも言えるし、キルアにとっては知ったことではない。しかし、アニタの赤の他人であるゴンはそれを心配している。自分の感覚とゴンの感覚の違いが驚いた原因なのかもしれない。
・ネテロと勝負をすることに。
ネテロに勝てばアニタの罪は帳消しになるばかりか、ハンターの資格までもらえると聞き、ゴンとキルアは「めちゃくちゃいい加減じゃん」と返す。
これはネテロの自身の表れでもあるし、本当に自分からボールを取れるのであれば、それだけでハンターになる資格は十分あると判断できるから、というのもあるだろう。ただネテロは楽しみたいだけという可能性ももちろんある。
・先にキルアが挑戦をする。
ネテロの足を本気で蹴るものの、ネテロの足はビクともしないばかりか、逆に蹴ったキルアにダメージがあり、かなり痛かった様子。今まで、この話はキルアが暗殺者のエリート、ということが中心にあって進んできた結果、強さの軸や話の中心がキルアだったため、そのキルアが痛がるレベルの実力がネテロにあることを瞬時に視聴者に思い知らしてくれる、いい場面だ。そして、「あのキルアが苦戦している」と感じられることから、ネテロがただの役職にふんぞり返っているだけの人ではなく、バリバリの現役だということがわかる。
キルアはそんなネテロに本気を出し、ネテロからボールを奪おうとするシーンで幕を閉じる。
まとめ
今回の話も旧のオリジナルが挟まり、アニタというオリジナルキャラクターを上手くキルアの正体に絡ませることで、面白さをより向上させている。しかも次の話でのアイキャッチにおそらく冨樫先生が描きおろしたであろうアニタがいることから、原作者公認のキャラクターである可能性は十分ある。
また、やはりこの話の肝というべきか、印象に残るのは短いワンカットの使用だろう。美しく描かれた絵であるのに、短い使用にとどめることで、逆に脳裏に焼き付くのは、かなり上手い演出であると言える。
旧には間の使い方が上手いと感じるシーンが多いが、間だけではなく、もはや一瞬という時間感覚で恐怖を与えるという時間の使い方にまで工夫があるのが、拍手ものであり唸ってしまう点だろう。
旧の良いところがギュッと詰まった回であると言えるのではないだろうか。